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(5)「1ハゼ」焙煎についての言葉を整理して考える

コーヒー豆は焙煎することによりハゼます。

「ハゼ」とは漢字で「爆ぜ」、つまり爆発・破裂する現象のとこです。ギンナンを炒るとあるタイミングでパッチーンと音を出して跳ねます。ホップコーンも一緒です。コーヒー豆も同じようにハゼます。

ただ、コーヒー豆の場合、ハゼが二回あるのが特徴です。それを1ハゼ ( First Crack )・2ハゼ ( Second Crack )と言います。1ハゼは比較的低音でバチ!バチ!と、2ハゼは高音で連続的にパチパチパチパチという音がなります。

コーヒーの焙煎においては、焙煎の進行状況を示す指標として、非常に重要な現象として捉えられています。「1ハゼが始まってから(終わってから)〇〇秒で終了」とか、「2ハゼが始まった直後に終了する」といったように使います。

また全体の焙煎時間を分母として1ハゼが始まった時間から焙煎終了時までの時間を分子とした数値を百分率(%)で表すことをDTR (Developing Time Ratio )もしくは略してデベロップと言いますが、その値で焙煎状況を表現する方法もあります。

では、改めて「ハゼ」とは科学的にどのような現象なのか検証してみましょう。

 

まずは「1ハゼ」について。

コーヒー生豆を加熱してゆくと、豆の内部の水分(H2Oとして存在する自由水)が蒸発して細胞内部の圧力が高まります。ある段階まで圧力が高まると細胞壁を破り、内部より水蒸気を放出します。この際に出るのが1ハゼの音です。また、水蒸気が放出されると豆の内部から気化熱が奪われ、豆の温度は低下傾向を示します。ここでいう低下傾向とは、実際に温度が下がるのではなく、温度上昇率が低下する程度の現象です。

つまり、1ハゼの時に観測できるのは、細胞壁を突き破った時の「音」と水蒸気により奪われた気化熱による「温度上昇率の低下」です。

1ハゼのタイミングは、内部の水の蒸発による内圧の上昇と、それに対抗する豆の細胞のセルロースの強さに依存します。つまり、豆のサイズ(粒径)、硬さ、密度、水分含有率、精製方法などによってハゼのタイミングは変わるということです。(焙煎をしている方であれば心当たりがあるはず)精製方法で言えば、ナチュラルやハニー製法の方がウォッシュドに比べてハゼのタイミングが遅いと感じます。これは豆に付着したミューシレージによるボンディング効果があるため、豆の耐圧力が高まるからではないでしょうか?

さて、比較的浅煎り(2ハゼまで行かない程度)の焙煎において、焙煎の深さを表現するのに1ハゼを基準に「1ハゼから〇〇秒」とか「DTRが〇〇%」とか表現している方が多いと思います。1ハゼは、「音」によって誰にでも知覚できるため、焙煎の程度を誰かに伝えるのに必要な共通言語として利用されているからです。

しかし、1ハゼを共通言語として使用するには、二つの問題点があります。

問題1.ハゼの開始はいつなのか?

ハゼを「音」で知覚する場合、ハゼの開始はいつになるのでしょう?1回目の「バチッ」となった瞬間?たまたま内圧に耐えきれない弱い豆だったかもしれませんね。じゃあ10回目?100回目?勢いよく「バチバチバチ」となった瞬間?そもそもハゼのはっきりしない豆だってある。その判断は人によって様々です。個人の主観で決定しているハゼのタイミングを共通言語として使用するのはいかがなものでしょうか?

私は「音」だけによる判断には反対の立場で、「温度上昇率の低下」も含めて判断すべきだと思います。Artisanを使用すれば3秒に一度、豆温度(BT)と豆温度上昇率(ΔBT)を表示してくれます。ハゼの前後のΔBTの挙動を観察するとハゼが生じているときはΔBTが急激に低下することがわかります。またその直前にΔBTが上昇する、もしくはフラットになることが多々あります。このことは、豆の内圧が最大限に高まった時にΔBTが上昇し、内部の水蒸気が放出されて気化熱が奪われた際にΔBTが減少していることを『統計的に』表していると私は理解しています。数千粒の豆の焙煎状況を表現するのに「統計的」な数値で認識できるのは非常にありがたいことです。もちろん「温度上昇率の低下」だけではなく「音」も重要な事象です。豆によっては「温度上昇率の低下」もよくわからない場合もあり得ます。したがって、それらを総合的に判断することが大事です。

問題2.ハゼで焙煎度を決定できるのか?

1ハゼのタイミングを一意に決定できると仮定して、焙煎の度合いをハゼを基準とした表現で決定できるのでしょうか?前述の通り1ハゼのタイミングは、豆のサイズ(粒径)、硬さ、密度、水分含有率、精製方法などによって変わります。全く同じ焙煎状況でも、1ハゼのタイミングは豆によって異なるので、例えばDTR20%であっても、いろんな焙煎度があり得るということです。ハゼだけを基準にした焙煎度の表現には無理があると私は考えます。

では、焙煎の度合いを表現する方法はないのでしょうか?私の回答は”ある”です。Artisanに搭載されている機能「AUC : Area Under the Curve 」が非常に有効な指標となるでしょう。AUCの話はまた今後。

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ところで、1ハゼの前後でコーヒーの風味に変化があるのでしょうか?

コーヒーの風味とは、有機物の集合体であるコーヒー豆の化学変化によって変化し、決定されます。コーヒー焙煎において重要な化学変化の代表といえば、メイラード反応とカラメル化反応です。メイラード反応は還元糖とアミノ酸の熱による反応で、コーヒー独特の色や香味を生み出す反応です。カラメル化反応は糖の加熱分解作用でコーヒーの甘さ・苦さに関わる反応です。コーヒーの風味が決定されるのはこの二つだけとはいえませんが、いずれにせよ熱による化学反応で決定されることは事実です。

ところが1ハゼとは、蒸気圧によって高まる内圧と豆の耐圧性によって決められる”物理的”な現象です。したがって、1ハゼによってコーヒーの風味は変化しません。ただし、1ハゼによる豆の内圧の変化によってその後の化学反応は変化すると考えられます。同じ物質の化学反応であっても、周囲環境の温度・圧力によって反応は変化するものです。それがどのような風味に影響するのか、まだ解決されていない問題だと思います。どなたか研究していただけないでしょうか?

次回は「2ハゼ」について述べたいと思います。


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